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構造生物学:コロナウイルスの二重膜小胞孔複合体の分子構造
Nature 633, 8028 doi: 10.1038/s41586-024-07817-y
コロナウイルスは、複製の間に細胞内の宿主膜をリモデリングして二重膜小胞(DMV)を作り、その中で、ウイルスRNAの合成と修飾を行う。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の非構造タンパク質3(nsp3)とnsp4は、DMV形成の誘導と二重膜を貫通する小孔(新規に合成されたウイルスRNAの輸送に必須)の形成に必要な最小のウイルス構成成分である。DMV小孔複合体を形成する機構はまだ分かっていない。今回我々は、SARS-CoV-2 nsp3–nsp4小孔複合体の分子構造を報告する。この構造は、単離されたDMVで極低温電子線トモグラフィー法とサブトモグラム平均化により解かれたものである。これらの構造から、nsp3とnsp4がそれぞれ12コピーからなるnsp3–nsp4小孔複合体の予想外の化学量論的特徴とトポロジーが明らかになった。この複合体は、4つの同心六量体リングが重なった構造で、小型の核膜孔複合体と似ている。膜貫通ドメインは、互いに組み合わさって二重膜の接着点で部分的に大きくカーブしていて、二重膜の再組織化と小孔形成を結び付けている。細胞外ドメインは、準12回対称で広範囲にわたって接触し合っていて、膜間スペースから小孔複合体をつなぎ止めている。アルギニン残基からなる、正電荷を持った中央のリングは、ウイルス複製に必須と考えられるRNA輸送を調整している。我々の研究により、DMV小孔形成とRNA輸送を理解する枠組みが確立され、コロナウイルス感染と戦う新規な抗ウイルス戦略開発のための構造学的な基盤がもたらされた。