発生生物学:エピジェネティックバリアはヒトニューロンの成熟のタイミングを設定する
Nature 626, 8000 doi: 10.1038/s41586-023-06984-8
ヒト脳の発達速度は、他のほとんどの種に比べて非常に遅い。大脳皮質ニューロンの成熟は特に遅く、成人の機能が発達するのには数カ月から数年を要する。時間的調節がこのように長期にわたるのは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)に由来する皮質ニューロンをin vitroで分化させた場合、あるいはマウス脳へ移植した場合にも同様である。このような知見は、ニューロンの成熟速度を設定する細胞固有の時計の存在を示唆しているが、この時計の分子的性質は明らかにされていない。本論文で我々は、ヒトニューロン成熟の速度を設定するエピジェネティックな発達プログラムを明らかにする。我々はまず、in vitroで皮質ニューロンの誕生を同期させるhPSCベースの手法を開発し、これによって形態学的成熟、機能的成熟、分子的成熟のアトラスを明らかにすることができた。成熟プログラムはゆっくりと展開され、特定のエピジェネティック因子の保持により進行が制限されていることが観察された。皮質ニューロンでは、これらの因子のうちの複数の機能が失われると、通常より早い成熟が見られるようになる。前駆段階でEZH2、EHMT1およびEHMT2、もしくはDOT1Lを一過的に阻害すると、新しく生じたニューロンはプライミングされ、分化の際に成熟時の特性を迅速に獲得するようになる。従って我々の知見は、ヒトニューロンが成熟する速度は、前駆細胞でのエピジェネティックバリアの確立を介して神経新生のかなり前に設定されることを示している。機構的には、このバリアは転写成熟プログラムを停止状態で保持しており、この状態が徐々に解除されることによってヒト皮質ニューロンの成熟の長時間にわたるスケジュールが確保されている。

