Article
物性物理学:交代磁性によるクラマース縮退の解除
Nature 626, 7999 doi: 10.1038/s41586-023-06907-7
クラマース縮退の解除(LKSD:Lifted Kramers spin degeneracy)は、固体のバンド理論が誕生して以来、物性物理学の中心的な話題の1つとなってきた。LKSDは、磁気メモリー技術からトポロジカル量子物質まで、確立された実用的応用だけでなく現在の未開拓分野の研究も支えている。従来、LKSDは、内部対称性を破る2つの機構によって生じる可能性があると考えられてきた。第一は、強磁性体の磁化による時間反転対称性の破れで、非相対論的な交換相互作用に由来するため強い傾向がある。第二は、空間反転対称性が破れた結晶に当てはまり、相対論的スピン–軌道相互作用(SOC)に由来するので、比較的弱い傾向がある。スピン対称性の分類に基づく最近の理論的研究によって、正味の磁化や空間反転対称性の破れがなくてもLKSDを実現できる、交代磁性と呼ばれる非従来型の磁性相が見いだされている。今回我々は、光電子分光と第一原理計算を用いて、その裏付けを提示する。我々は、正味の磁化の消失を伴う中心対称のMnTeの交代磁性相によって生じる、LKSDの全く異なる2つの非従来型の機構を特定した。今回の交代磁性LKSDの観測は、磁性に幅広い影響をもたらす可能性がある。これは、従来型の反強磁性体として最近特定されたり数十年にわたって認識されていたりした、絶縁体や半導体から金属や超伝導体にわたる広範な物質群において、この磁性相の非従来型の性質を探求・利用しようとする動機付けとなる。

