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ウイルス学:SARS-CoV-2 BA.2.86スパイクの抗原性と受容体親和性

Nature 624, 7992 doi: 10.1038/s41586-023-06750-w

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)オミクロン派生株であるBA.2.86が出現し、世界中の多くの国々へ広がっており、そのスパイクタンパク質は、祖先株であるBA.2と比較して34カ所の新たな変異を有しているため、警戒されている。今回我々は、ヒトの血清やモノクローナル抗体(mAb)を使って、その抗原性を調べた。その結果、BA.2.86は幸いにも、現在優勢であるXBB.1.5やEG.5.1ほどヒト血清に抵抗性を示さず、この点でこの新たな派生株は増殖優位性を持たないことが示された。XBBのブレイクスルー感染を起こしたヒト由来の血清は、調べたウイルス全てに対してロバストな中和活性を示すことは重要で、これは今後のXBB.1.5単価ワクチンが追加防御をもたらし得ることを示唆している。BA.2.86は、サブドメイン1(SD1)や、受容体結合ドメイン(RBD)クラス2および3のエピトープに対するmAbには強い抵抗性を示したが、RBDの「内側面」にあるクラス1やクラス4/1のエピトープ(RBDが「アップ」ポジションの時にのみ露出する)に対するmAbには、より高い感受性を示した。また、抗体抵抗性を仲介する6つの新しいスパイク変異が特定され、例えば、E554Kは臨床開発中のSD1 mAbを回避する。さらにBA.2.86スパイクは非常に高い受容体親和性も有していた。この新規のSARS-CoV-2変異株が最終的にどのような軌跡をたどるのかは、継続的なサーベイランスによってすぐに明らかになるであろうが、その全世界への拡散は懸念される。

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