ウイルス学:TMPRSS2はヒトコロナウイルスHKU1の受容体として機能する
Nature 624, 7990 doi: 10.1038/s41586-023-06761-7
通常の風邪のエンデミックの原因となる季節性ヒトコロナウイルスは、HKU1、229E、NL63、OC43の4種類が世界的に広がっている。コロナウイルスのスパイクタンパク質は、細胞の受容体に結合するとII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)もしくはエンドソームのカテプシンによってプライミングされて融合する。NL63は受容体としてアンギオテンシン変換酵素2を用いるが、229EはヒトアミノペプチダーゼNを使う。HKU1とOC43のスパイクタンパク質は9-O-アセチル化シアル酸を介して細胞に結合するが、そのタンパク質受容体はまだ明らかになっていない。今回我々は、TMPRSS2がHKU1の受容体として機能することを明らかにする。TMPRSS2が引き金となって、HKU1のスパイクタンパク質を介した細胞同士の融合とシュードウイルス感染が起こる。触媒としては不活性なTMPRSS2変異体は、HKU1のスパイクは切断しないが、シュードウイルス感染は起こり得る。さらに、TMPRSS2はHKU1の受容体結合ドメインに高い親和性(HKU1の遺伝子型HKU1Aでは解離定数〔Kd〕が334 nM、HKU1Bでは137 nM)で結合するが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)には結合しない。HKU1の受容体結合ドメインの保存されたアミノ酸は、TMPRSS2との結合とシュードウイルス感染に不可欠である。新たに設計した抗TMPRSS2ナノボディは、HKU1スパイクタンパク質のTMPRSS2への結合、融合およびシュードウイルス感染を強力に阻害した。このナノボディは、真正HKU1ウイルスのヒト初代培養気管支細胞への感染も抑制した。これらの知見から、TMPRSS2を標的細胞への直接的な結合や、膜との融合と侵入のためのスパイクタンパク質のプライミングに使う、コロナウイルス類の多様な進化戦略が明らかになった。

