構造生物学:ヒト心筋ミオシンフィラメントのクライオ電子顕微鏡構造
Nature 623, 7988 doi: 10.1038/s41586-023-06691-4
心臓の拍動は、モータータンパク質ミオシンが形成するフィラメントにより駆動されていて、ミオシンはアクチンフィラメントをたぐり寄せるように引っ張って心収縮を生じさせる。このフィラメントには、ミオシンに加えて、生理的刺激に応じて収縮性を調節する心筋ミオシン結合タンパク質C(cMyBP-C)とフィラメント構築の足場として機能するタイチンが含まれる。ミオシンとcMyBP-C、そしてタイチンはいずれも変異を起こす可能性があり、こうした変異は心不全につながりかねない。心筋ミオシンフィラメントは生命に最も重要であるにもかかわらず、それらの分子構造は60年の間、解明されなかった。今回我々は、クライオ電子顕微鏡法を用いて、ヒト心筋フィラメントのcMyBP-Cを含む主要領域の構造を解いた。その再構成から、タイチンとcMyBP-Cの構造が明らかになり、ミオシンのモータードメイン(頭部)が種類の異なる3つのモチーフ(機能に柔軟性をもたらす)を形成する仕組みが明らかになった。これらのモチーフは、モチーフ相互間だけでなく、タイチンやcMyBP-Cとも相互作用してフィラメントの構造と機能を決定している。フィラメント骨格中のミオシン尾部のパッキング状態も解像され、その構造から、cMyBP-Cが心筋の超弛緩状態の生成を補助する仕組みや、タイチンとcMyBP-Cが長さに依存する活性化にどのように関わっていると考えられるか、また、ミオシンとcMyBP-Cの変異が相互作用を擾乱して疾病を引き起こす仕組みと思われるものが示唆された。今回の再構成により、これまで不確実だった点が解決され、心筋の構造と機能に関する以前のデータが統合された。これらによって、構造学的、生理学的、臨床での観察結果を説明し、治療薬候補を設計するための新たな枠組みが提供される。

