Article

生物物理学:縮合した巨大分子は細胞内水ポテンシャルの緩衝体となる

Nature 623, 7988 doi: 10.1038/s41586-023-06626-z

タンパク質の機能と生化学活性が最適に保たれるかどうかは、水の利用可能性に決定的に依存する。それは、溶媒の熱力学的性質がタンパク質の折りたたみや巨大分子の相互作用の原動力となるからである。これとは逆に、巨大分子は「構造化された」水分子の動きを水和層内に制限して、利用可能な「遊離の」バルク溶媒を減らすので、水の全熱力学的ポテンシャルエネルギー(水ポテンシャル)を減少させる。今回我々は、細胞質ゾルのような濃縮された巨大分子溶液中では、温度のわずかな変化が水ポテンシャルに大きく影響し、こうした変化は浸透力の反対方向の変化によって相殺されることを見いだした。温度と浸透力というこの二元性のために、溶媒の熱力学的性質の単純な操作によって極端な低温や熱ショック後の細胞死を防ぐことが可能になる。生理学的には、細胞は温度や圧力、浸透力の変動にあらがって自己の活動を持続させなくてはならない。こういった変動は水の利用可能性に数秒以内に影響を及ぼす。しかし、水の恒常性維持のための確立した機構は、はるかにゆっくりとした時間スケールで働くので、もっと迅速に働く代償性応答が存在するはずだと我々は考えた。そして、この機能を果たすのが、水ポテンシャルが誘発する巨大分子集合体、特に生体分子である天然変性タンパク質の縮合の変化であることを発見した。生体分子縮合体の生成や解離によって、遊離状態の水が放出されたり捕捉されたりし、これが水ポテンシャルの温度あるいは浸透力による変動に速やかに拮抗して、その結果として細胞質では水ポテンシャルの変動がロバストに緩衝される。これらの結果が示すように、生体分子の縮合は細胞内の浸透力や温度の変動を速やかに補償する内在的な生物物理学的フィードバック応答の一部となっている。縮合した細胞質ゾル内での水の利用可能性保持は、タンパク質の秩序だった(あるいは無秩序な)状態や機能を進化させる原動力のうちの、これまで見過ごされてきた1つであると我々は考える。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度