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ウイルス学:全世界のSARS-CoV-2ゲノムにおけるモルヌピラビル関連変異シグネチャー

Nature 623, 7987 doi: 10.1038/s41586-023-06649-6

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対して広く使われている抗ウイルス薬であるモルヌピラビルは、複製時にウイルスゲノムに変異を誘導することによって作用する。大部分のランダムな変異はウイルスに対して有害なようで、多くは致死的であり、そのため、モルヌピラビルによって誘導される変異率が高いほど、ウイルス量は減少する。しかし、モルヌピラビル治療を受けた患者の一部で、SARS-CoV-2感染が完全に排除されなかった場合、モルヌピラビルにより変異したウイルスがさらに伝播する可能性がある。本論文で我々は、SARS-CoV-2塩基配列解読データベースには、モルヌピラビルによる変異誘発について多くの証拠が含まれていることを示す。体系的な手法を用いることで、G-to-A変異やC-to-T変異の割合が高いことで区別される特定のクラスについての系統樹の長い枝は、ほぼ例外なく、モルヌピラビル治療が導入された2022年以降の塩基配列、また、モルヌピラビルの広範な使用が行われた国や年齢グループの配列でのみ見られることが明らかになった。我々は、モルヌピラビル治療歴が確認される患者のウイルスから、変異が起こりやすいヌクレオチド配列を持つ変異スペクトラムを見いだし、このシグネチャーが、これらの長い枝に見られるものと一致し、モルヌピラビル派生系統のその後の伝播に対応する場合があることを示す。さらに、治療記録の解析から、これらの「高G-to-A枝」とモルヌピラビル使用との間の直接的な関連性が確認された。

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