構造生物学:電位依存性Na+/H+交換輸送体の構造と電気機械的共役
Nature 623, 7985 doi: 10.1038/s41586-023-06518-2
電位感受性ドメインは電位依存性イオンチャネルの活性化を制御しているが、少数の例外は存在する。そういった例外の1つが、精子特異的なNa+/H+交換輸送体SLC9C1で、電位感受性ドメインによって調節されていることが知られている唯一の輸送体である。精子の鞭毛が過分極すると、SLC9C1が活性化してpHのアルカリ化とCatSper Ca2+チャネルの活性化を引き起こし、それが走化性の原動力となる。SLC9C1の活性化はcAMPによっても調節されていて、このcAMPは可溶性アデニルシクラーゼ(sAC)が産生する。従って、SLC9C1は後生動物のpH–sAC–cAMPシグナル伝達経路の必須成分であり、精子の運動性と受精に不可欠である。しかしその重要性にもかかわらず、SLC9C1の電位による活性化の分子基盤は解明されていなかった。今回我々は、ウニのSLC9C1のクライオ電子顕微鏡構造を、界面活性剤中とナノディスク中で明らかにした。電位感受性ドメインは珍しい配置をとっていて、SLC9C1のホモ二量体を両側から挟んでいることが分かった。S4セグメントは非常に長くて90 Åもあり、電位感受性ドメインを細胞質側の環状ヌクレオチド結合ドメインに結び付けている。S4セグメントが膜側に上がっている配置では、SLC9C1は不活性状態になる。このことと一致して、Na+は、負電荷を帯びたくぼみに近づいて、そこでSLC9C1のイオン輸送ドメインに結合できるが、S4につながった細胞内ヘリックスがその動きを制限している。cAMP存在下でのSLC9C1のクライオ電子顕微鏡構造に見られる違いから、過分極が起こるとS4セグメントが下に動いて、制限が取り除かれるためにNa+/H+の交換が可能になると考えられる。

