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ウイルス学:SARS-CoV-2のニルマトレルビルに対する抵抗性の分子機構

Nature 622, 7982 doi: 10.1038/s41586-023-06609-0

ニルマトレルビルは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の主要なプロテアーゼ(Mpro)を標的とする特異的な抗ウイルス薬であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に承認されている。SARS-CoV-2は高い変異率を特徴とするRNAウイルスであるため、このウイルスがニルマトレルビルに対する抵抗性を生じるかどうかは懸念される問題である。これまでの研究で、複数の変異経路によってニルマトレルビルに対する抵抗性が生じるが、いくつかはウイルスの複製適応度を失わせ、その後に別の変化によってこれが補われることが示されている。しかし、この観察された抵抗性の分子機構は明らかになってない。今回我々は、生化学的方法と構造学的方法を組み合わせることで、Mproの基質結合ポケット内の変化が、SARS-CoV-2のニルマトレルビル抵抗性を2つの異なる方法で生じさせる可能性を明らかにした。薬剤や基質と複合体を形成した14のMpro変異体の構造を包括的に調べたところ、S1およびS4のサブサイトの変化が阻害剤の結合レベルを大幅に低下させる一方、S2およびS4′のサブサイトの変化は予想外にプロテアーゼ活性を上昇させることが明らかになった。どちらの機構もニルマトレルビル抵抗性に関与しており、前者の酵素活性の損失を後者が補うことで、以前観察されたようなウイルス複製適応度の回復が説明される。このようなプロファイルは、臨床的に重要なもう1つのMpro阻害剤であるエンシトレルビルについても観察された。これらの結果は、SARS-CoV-2の進化によって現世代のプロテアーゼ阻害剤に対する抵抗性が生じる機構を明らかにしており、また次世代のMpro阻害剤設計の基盤となる。

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