生物学的手法:トランスジェニックフェレットモデルによって明確になった肺の塩類細胞の多様性と機能
Nature 621, 7980 doi: 10.1038/s41586-023-06549-9
種分化は器官の細胞生理学的性質の適応変化につながり、ヒトとマウスで分岐した珍しい細胞タイプの機能研究を難しいものにしている。肺にあって嚢胞性繊維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)を豊富に含むまれな塩類細胞は、ヒト気道の軟骨全体にわたって存在するが、マウスの近位気管には限られた数しか存在せず生物学的性質が多様なため、気道での塩類細胞の機能を解明するのに従来のようなトランスジェニックモデルは使用できなかった。今回我々は、条件付き遺伝的フェレットモデルを作出し、それを使って塩類細胞系列の追跡(FOXI1-CreERT2::ROSA-TG)、塩類細胞の除去(FOXI1-KO)、塩類細胞特異的なCFTR欠失(FOXI1-CreERT2::CFTRL/L)を可能にすることにより、肺塩類細胞の生物学的特性と機能を解析した。これらのモデルを嚢胞性繊維症のフェレットと比較することにより、塩類細胞が気道表面の液体吸収、分泌、pH、粘液の粘度を制御していて、それが嚢胞性繊維症フェレット、FOXI1-KOフェレット、FOXI1-CreERT2::CFTRL/Lフェレットでの気道表面の液量減少と粘膜繊毛クリアランスの障害につながることが示された。これらの過程を調節しているのは、塩類細胞が行うCFTRに依存したCl−とHCO3−の輸送である。単一細胞トランスクリプトミクスとin vivoでの細胞系譜追跡によって、肺塩類細胞の3つのサブタイプと、気道発生の際には塩類細胞、房飾細胞、神経内分泌細胞に共通するFOXI1系列のまれな細胞前駆体が明らかになった。従って、近位気管では、嚢胞性繊維症の気道病態の特徴的性質であるCFTR依存性の重要な機能を、肺のまれな塩類細胞が果たしていることが分かった。これらの知見によって、ヒトとマウスに比べると、ヒトとフェレットとの間の方が進化上の保存程度が大きい形質である、遺伝子機能、細胞生物学、病理過程を調べるために、齧歯類以外の哺乳類で条件的遺伝学を使用するためのロードマップが初めて提供された。

