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生物工学:最適化されたmRNAを設計するためのアルゴリズムによる安定性と免疫原性の改善

Nature 621, 7978 doi: 10.1038/s41586-023-06127-z

メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡散を抑えるために用いられているが、mRNAの不安定性と分解を原因とする重大な制約がまだ見られ、これがワクチン製品の保管や配分、有効性に対する大きな障害となっている。二次構造を増やせばmRNAの半減期が延長され、最適なコドン使用と相まって、タンパク質発現が改善される。従って、原則に基づいたmRNA設計アルゴリズムでは、構造的安定性とコドン使用の両方を最適化しなければならない。しかし、同義コドンがあることでmRNA設計空間は法外な大きさとなり、例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)スパイクタンパク質に対するmRNA塩基配列候補は、約2.4 × 10632程度になる。これがもたらす計算上の難題は乗り越えられるものではない。今回我々は、計算言語学で使われる格子パージングという古典的概念を用いる単純かつ意外な解決策を示す。この方法での最適なmRNA塩基配列の発見は、似たような音の選択肢の中から最も適切なセンテンスを見つけ出す作業と似ている。我々のアルゴリズムであるLinearDesignは、スパイクタンパク質に対する最適なmRNA設計の1つをたった11分で見つけ出し、安定性とコドン使用を同時に最適化することができた。LinearDesignはmRNAの半減期とタンパク質発現を大幅に改善し、COVID-19および水痘帯状疱疹ウイルスに対するmRNAワクチンのコドン最適化ベンチマークと比べた場合、マウスでの抗体力価を最大128倍までと大幅に上昇させた。この結果は、原則に基づいたmRNA設計の大きな可能性を明らかにしており、これまでは不可能だったが極めて安定で効率的な設計の探索を可能にする。今回の研究は、ワクチンやモノクローナル抗体、抗がん薬などの治療用タンパク質をコードするmRNAをベースとする医薬のための手法のタイムリーな発見といえる。

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