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進化遺伝学:ヒト集団間で見られるSARS-CoV-2に対する応答の多様性を単一細胞レベルで解析する

Nature 621, 7977 doi: 10.1038/s41586-023-06422-9

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後のヒトの臨床症状は、個人間で大きなばらつきが見られ、その遺伝学的基盤や免疫学的基盤が解明され始めている。しかし、SARS-CoV-2に対する免疫応答の集団間での差の程度や駆動因子については、まだ明らかにされていない。本論文で我々は、多様な祖先を持つ健常ドナー222人から採取され、SARS-CoV-2またはA型インフルエンザウイルスで刺激された末梢血単核球の単一細胞RNA塩基配列解読データを報告する。我々は、SARS-CoV-2は、A型インフルエンザウイルスと比べて、インターフェロン誘導遺伝子を誘導する活性が弱く、より不均一であり、また、骨髄系細胞でユニークな炎症性シグネチャーを誘導することを示す。ウイルスに対する転写応答では、サイトメガロウイルスの潜伏感染に関連するリンパ球分化の増加など、主に細胞存在量の変化によって誘導される顕著な集団間の差が見られた。発現量的形質座位解析や媒介分析によって、免疫応答の集団間の差異には、細胞の構成が広範な影響を及ぼしており、また、遺伝的バリアントが特定の座位に強い影響を及ぼすことが明らかになった。さらに我々は、特に東アジア人でのSARS-CoV-2応答と関連するバリアントに関して、自然淘汰が免疫応答における集団間の差を増大させていることを示し、ネアンデルタール人の遺伝子移入がウイルスに対する骨髄系細胞の応答などの免疫機能を変化させる細胞レベルや分子レベルの機構を明らかにする。最後に、共局在解析とトランスクリプトーム規模関連解析によって、SARS-CoV-2に対する免疫応答の遺伝学的基盤と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症度の間の重複が明らかとなり、現在のCOVID-19リスクの違いに関与する因子に関する手掛かりが得られた。

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