発生生物学:一過性のナイーブ型再プログラム化はhiPS細胞を機能的およびエピジェネティックに修正する
Nature 620, 7975 doi: 10.1038/s41586-023-06424-7
ヒト誘導多能性幹細胞(hiPS細胞)への再プログラム化に際して、細胞ではエピゲノムの大幅な再構成が起こる。しかし、hiPS細胞とヒト胚性幹(hES)細胞ではエピゲノムが大きく異なり、これがhiPS細胞の機能に影響を及ぼしている。これらの差異には、エピジェネティックな記憶や再プログラム化の際に現れる異常が含まれるが、それらを生じさせる機構は明らかになっていない。今回我々は、ヒト体細胞のプライム型およびナイーブ型のhiPS細胞への再プログラム化を通じて、ゲノム規模のDNAメチル化プロファイリングを行うことで、これらのエピジェネティックな差異の持続と出現の特徴付けを行った。その結果、再プログラム化によって誘導されるエピジェネティックな異常は、プライム型再プログラム化の途中で出現する一方、DNAの脱メチル化はナイーブ型再プログラム化の初期に始まることが分かった。我々は、この知識を用いて、胚でのエピジェネティックな初期化を模倣する、一過性のナイーブ型処理(TNT:transient-naive-treatment)による再プログラム化戦略を開発した。hiPS細胞におけるエピジェネティックな記憶は、H3K9me3、ラミンB1、異常なCpHメチル化を特徴とする、起源細胞依存性の抑制性クロマチンに集中していることが分かった。TNT再プログラム化は、これらのドメインをhES細胞様の状態に再構成したが、ゲノムインプリンティングは破壊しなかった。我々は、同質遺伝子系を用い、TNT再プログラム化によって、従来のhiPS細胞で見られる転位性遺伝因子の過剰発現や差次的遺伝子発現を修正することができ、また、TNT再プログラム化されたhiPS細胞は、hES細胞と同等の分化効率を示すことを実証する。さらに、TNT再プログラム化は、複数のタイプの細胞から作製したhiPS細胞の分化を向上させた。従って、TNT再プログラム化はエピジェネティックな記憶や異常を修正し、従来のhiPS細胞よりも分子的および機能的にhES細胞に類似したhiPS細胞を作り出す。我々は、TNT再プログラム化が生物医学的応用や治療応用の新しい標準となり、エピジェネティックな記憶を研究するための新しい系になると予測する。

