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感覚生物学:ショウジョウバエの行動への磁場の影響を証明する証拠はない

Nature 620, 7974 doi: 10.1038/s41586-023-06397-7

渡りをする鳴禽類には、地球の磁場から方角の情報を引き出す卓越した能力が備わっている。しかし、この光依存的な磁気コンパス感覚の正確な機構は、十分に解明されていない。最も有望な仮説は、網膜中のタンパク質クリプトクロムに生じる一過的なラジカル対の量子スピン動態に注目している。いらだたしいことに、この理論を裏付ける証拠の多くは状況証拠にすぎず、それは主に、野生の鳥類に遺伝子改変を行うことが非常な困難なためである。このため、ショウジョウバエ(Drosophila)がモデル生物として採用されて、ハエの行動へのクリプトクロムが介在する磁場の影響についていくつかの有力な報告がなされ、それらの報告が、鳥類におけるラジカル対を基盤とする機構を裏付けるものと広く解釈されてきた。今回我々は、二分岐迷路中で移動する9万7658匹のハエと、負の走地性と呼ばれる自発的逃避行動を実行中の1万960匹のハエに対して、磁場の影響を調べた大規模実験の結果を報告する。入念に制御された条件の下、莫大な試料サイズで行われたこの実験で、ショウジョウバエに磁気感受性の行動があるという証拠は見いだせなかった。我々が再現を試みた諸研究で用いられた統計学的手法と試料サイズを再検討した結果、オリジナル研究の結果の(全てとはいえないにしても)多くが偽陽性であった。従って、今回の知見は、ショウジョウバエに磁気感覚が存在するという説に少なからぬ疑義を投じるもので、光依存的磁気感覚機構の究明には、夜間に渡りをする鳴禽類をモデル生物として選ぶべきであることを強く示唆している。

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