がんゲノミクス:乳がんと関連クローンの進化史
Nature 620, 7974 doi: 10.1038/s41586-023-06333-9
近年の研究によって、一見正常に見える組織においてがんで頻繁に認められる遺伝子変異を有するクローンが頻繁に進化していることが示され、それらの発がんへの関与が示唆されている。しかし、正常組織内のこれらのクローンの1つまたは複数が最終的にがんへと進化する前に、どのような付加的なドライバー事象がどのような順番で生ずるのかについては、まだよく分かっていない。今回我々は、がん病変と非がん病変の両方から採取した複数のマイクロダイセクション試料について系統樹解析を行うことにより、乳がんの約20%で頻繁に見られるドライバー異常であるder(1;16)を持った乳がんのユニークな進化の歴史を明らかにした。進化初期に生じた事象のおおよそのタイミングを、正常上皮細胞で測定された変異の蓄積速度に基づいて推定した。der(1;16)(+)がんでは、当該派生染色体が思春期初期から青年期後期に獲得され、その後、患者の30代前半までに共通の祖先細胞が生じ、この細胞から、がんクローンと非がんクローンの両方が進化していた。これらのクローンは、その後、既存の乳腺上皮を置換しながら、がんと診断されるまでには、閉経前の乳房組織内の広い領域を占めていた。がんではない祖先の細胞集団から、がんの形質を有する複数の起源の細胞が独立に進化することは通例で、腫瘍内不均一性の形成に寄与していた。ドライバー事象の数には組織学的な相関が見られなかったことから、局所的微小環境またはエピジェネティックなドライバー事象、あるいはその両者が役割を担っていることが示唆される。同様の進化のパターンは、AKT1遺伝子の変異した1つの起源の細胞から進化した別のがんにおいても観察された。以上まとめると、本研究の結果は、乳がんの進化機構についての新たな視点を提供している。

