生物物理学:生体分子凝縮物の極めて動的な変化
Nature 619, 7971 doi: 10.1038/s41586-023-06329-5
タンパク質と核酸は、細胞内で相分離を起こして濃縮された生体分子凝縮物を形成することがある。凝縮物の機能はさまざまな長さスケールに及んでいて、分子スケールでは相互作用や化学反応を調節し、中間的な長さスケールでは生化学過程を統合し、細胞を区画化する。これらの過程の基盤となる機構を理解するには、こういった異なる長さスケールにまたがる幅広い動的変化を詳しく知る必要がある。生体分子凝縮物の中間的なスケールでの動態については広範囲にわたって明らかにされてきたが、その分子スケールでの挙動については解明が進んでいない。今回我々は、生体分子の相分離の一例として、逆向きの電荷(正電荷と負電荷)を高度に帯びた2種類のヒト変性タンパク質(固定された三次元構造を持たない)の複合コアセルベートを調べた。この濃縮相は希薄相に比べると1000倍も濃縮されており、その結果として徐々に形成された相互作用ネットワークの体積粘性率は水の300倍に達している。しかし、個々の液滴中の測定に最適化した単一分子分光法によって、分子スケールでは変性タンパク質は極めて動的な状態を維持していて、鎖の形状はマイクロ秒以下という時間スケールで相互変換することが明らかになった。全原子が含まれる大規模な分子動態シミュレーションによって、実験での観察結果が再現され、この見かけ上の食い違いが説明できた。基盤となっているのは電荷を持つ個々の側鎖間の相互作用で、これが短寿命であり、ピコ秒からナノ秒の時間スケールで交換が起こっているのである。相分離系の巨視的に見た粘性は高いものの、分子スケールでの効率良い反応に必要な局所的な生体分子の再編成は迅速に起こり得ることを、これらの結果は示している。

