Article

神経科学:相対的価値を決定する、閾値への到達過程

Nature 619, 7970 doi: 10.1038/s41586-023-06271-6

手掛かりに基づく素早い意思決定に関連した神経信号の特定については進歩が見られるが、動物自らの行動が数分にわたり経験した選択肢に影響を及ぼすという、より動物行動学的に重要な意思決定を、脳がどのように誘導して終わらせるのかについては理解が進んでいない。ショウジョウバエ(Drosophila)は、相対的価値の高い産卵場所を何秒も何分もかけて探索する。ショウジョウバエにはoviDNと呼ばれるニューロンがあり、その活動は産卵運動プログラムを起動するのに必要・十分な基準を満たしている。今回我々は、oviDNの発するカルシウム信号が、(1)体内で卵の準備ができる(排卵される)と低下し、(2)ハエが産卵を行うかどうか決定するまでの間、基質の相対的価値に左右される様式で、数秒から数分にわたって上昇・低下を繰り返し、(3)産卵のために腹部を曲げる直前に一定のピークレベルに達することを示す。この信号は、脳内にあるoviDNの細胞体で明瞭に認められ、おそらくoviDNのシナプス終末が存在してその出力が行動に影響を及ぼしている腹神経索における、行動的に重要な閾値への到達(rise-to-threshold)過程を反映していると思われる。摂動実験の証拠から、この過程がひとたび閾値に達すると産卵運動プログラムが起動し、この過程での閾値下での変動は、選択肢を考慮しながら最終的に選択を行うまでに費やす時間を調節していることが示された。さらに、oviDNに入力する小さな反回性回路が見つかり、それを構成する細胞タイプそれぞれの活動が産卵に必要なことが明らかになった。これらの結果は、閾値への到達過程が相対的価値と自己ペースでの意思決定を調節していることを論証するとともに、この過程を構築する基盤となる回路機構に初めての洞察を与えるものである。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度