がん:ヒストンデメチラーゼKDM5Dの発現増加は大腸がんに見られる性差を促進する
Nature 619, 7970 doi: 10.1038/s41586-023-06254-7
性別はがんの発生率、種類、転帰に大きな影響を及ぼすが、そうした性差の分子基盤や遺伝的基盤は十分に解明されておらず、X染色体の遺伝子と性ホルモンが原因だろうと想定されている。こういった性差が特に顕著なのは大腸がん(CRC)で、男性の方が転移や死亡が多い。今回我々は、発がん性変異体KRASG12Dをコードする誘導性導入遺伝子と腫瘍抑制遺伝子ApcとTrp53の条件付きヌル対立遺伝子(iKAPと命名)を持つように遺伝子操作したマウスCRCモデルを使って、発がん性変異体KRAS(KRAS*)CRCを持つ雄の方が特異的に転移が起こりやすく、予後も悪いことを明らかにする。異種間の分子解析とトランスクリプトーム解析を統合することにより、Y染色体のヒストンデメチラーゼ遺伝子KDM5Dが、KRAS*を介したSTAT4転写因子の活性化によって転写が促進される遺伝子であることが突き止められた。クロマチン標識とトランスクリプトームのKDM5Dに依存した変化によって、上皮細胞密着結合の調節因子と主要組織適合遺伝子複合体クラスI成分の調節因子の抑制が明らかになった。iKAPがん細胞でKdm5dを欠失させると密着結合の完全性が高まり、細胞の侵襲性が低下し、CD8+ T細胞によるがん細胞の殺傷が促進された。逆に、Kdm5d遺伝子を導入してiAPがん細胞特異的にKdm5dを構成性に発現するように操作したiAPマウスは、in vivoでより侵襲性の強い腫瘍が生じる傾向が強かった。従って、KRAS* CRCに見られる性差には、KRAS*-STAT4を介したY染色体KDM5Dの発現増加が、がん細胞の接着性と腫瘍免疫の破壊を引き起こすことによって大きく関わっている。この知見は、KRAS* CRCに罹患した男性の転移リスクを低減するための実行可能な治療戦略につながるだろう。

