惑星地球化学:エンセラダスの海洋を起源とするリン酸塩の検出
Nature 618, 7965 doi: 10.1038/s41586-023-05987-9
土星の衛星エンセラダスには、氷で覆われた表面の下に全球規模の水の地下海が存在している。探査機カッシーニは、この衛星の氷火山のプルームによって宇宙空間に放出された物質の分析を行い、その海洋の組成を調べてきた。カッシーニの宇宙塵分析装置による塩に富んだ氷粒子の分析によって、海水の主要な溶質(Na+、K+、Cl−、HCO3−、CO32−)と、その海水pHがアルカリ性であるという推定が可能になった。生物の必須元素の中で最も存在度が低いリンは、地球以外の海洋ではまだ検出されていない。地球化学モデルを用いた過去の研究では、エンセラダスなどの氷天体の海洋ではリン酸塩が希少である可能性が示唆されていた。しかし、エンセラダスの海洋における鉱物の溶解度を考慮したより新しいモデルでは、リン酸塩が比較的豊富に存在する可能性が示されている。本論文で我々は、探査機カッシーニの宇宙塵分析装置による、エンセラダスから放出された氷粒子の質量スペクトルを提示し、その粒子にリン酸ナトリウムが含まれることを示す。類似した環境での室内実験と合わせて、我々の観測結果は、リンがオルトリン酸塩の形でエンセラダスの海洋に豊富に存在し、この衛星のプルームを形成する海水のリン酸濃度は、地球の海洋の少なくとも100倍であることを示唆している。さらに、地球化学実験とモデル化から、エンセラダスや、場合によっては始原的なCO2の雪線以遠の他の氷天体の地下海では、低温の海底または中程度の温度の熱水環境のいずれかで、そのような高いリン酸塩の存在度が実現される可能性が示された。どちらの場合も、炭酸イオンや重炭酸イオンに富んだ中程度のアルカリ性溶液中で、炭酸カルシウムに比べてリン酸カルシウム鉱物の溶解度が高いことが、リン酸塩の高い存在度をもたらす主な駆動要因であると思われる。

