がん:リシンの異化はヒストンのクロトニル化を介して腫瘍免疫を再プログラム化する
Nature 617, 7962 doi: 10.1038/s41586-023-06061-0
がん細胞には代謝を再配線して特殊な代謝物を生成する傾向があり、これらの代謝物は腫瘍の増殖を支え、腫瘍微小環境を作り変える。リシンは、生合成分子、エネルギー源、抗酸化物質として機能するが、がんにおける病理学的役割についてはほとんど分かっていない。今回我々は、グリオブラストーマ(神経膠芽腫)幹細胞(GSC)が、リシン輸送体SLC7A2と、クロトニル-補酵素A(クロトニルCoA)を産生する酵素であるグルタリルCoAデヒドロゲナーゼ(GCDH)の発現上昇と、クロトニルCoAヒドラターゼである短鎖エノイルCoAヒドラターゼ1(ECHS1)の発現低下を介して、リシンの異化を再プログラム化することで、細胞内でのクロトニルCoAの蓄積とヒストンH4リシンのクロトニル化を引き起こすことを示す。遺伝的操作あるいはリシン制限によってヒストンのリシンのクロトニル化を減少させると、腫瘍の増殖が減弱した。核では、GCDHはクロトニルトランスフェラーゼCBPと相互作用して、ヒストンのリシンのクロトニル化を促進した。ヒストンのリシンのクロトニル化が喪失すると、H3K27acの増加を介して、細胞質ゾルで免疫原性を持つ二本鎖RNA(dsRNA)とdsDNAの生成が促進され、これによりRNAセンサーのMDA5とDNAセンサーのサイクリックGMP–AMPシンターゼ(cGAS)が刺激されて、I型インターフェロンシグナル伝達が亢進し、GSCの腫瘍形成能の減弱とCD8+ T細胞の浸潤増強につながった。リシン制限食は、MYC阻害あるいは抗PD-1療法と相乗的に作用して、腫瘍の増殖を遅らせた。まとめると、GSCは、リシンの取り込みと分解を利用して、クロトニルCoA産生へ切り換えることで、クロマチンの全体像をリモデリングし、GSC維持に対するインターフェロン誘導性の内因的影響や、免疫応答に対する外因的影響を回避している。

