生化学:カルベン転移の化学反応全体を生合成に組み込む
Nature 617, 7960 doi: 10.1038/s41586-023-06027-2
生合成は環境に対して無害であり、幅広い天然物だけでなく、場合によっては天然には存在しない物質の産生にも使用できる継続可能な手法である。しかし、合成化学の分野で使用可能な反応の多くは生物には存在しないため、合成化学の手法ではなく生合成を使った場合の方が、得られる産物の範囲は狭まってしまう。こういった化学反応の適切な例の1つが、カルベン転移反応である。カルベン転移反応が細胞内でも行えることや、生合成に使用可能なことが最近明らかになったが、目的とする反応を達成するにはカルベン供与体と天然にはない補因子を外部から加えて細胞内に運び入れる必要があり、これがこういった反応を含む生合成過程を費用効率よくスケールアップすることを妨げている。今回我々は、カルベン前駆体であるジアゾエステルを細胞内代謝によって得て、天然にはないカルベン転移反応を生合成に導入するための微生物プラットフォームを考案した。α-ジアゾエステルであるアザセリンは、放線菌Streptomyces albusで生合成遺伝子クラスターを発現させることによって産生させた。細胞内で作られたこのアザセリンを、やはり細胞内で合成された環状分子であるシクロプロパン酸(スチレン)へのカルベン供与体として用いた。この反応を触媒するのは遺伝子操作したP450変異体で、天然の補因子を含んでおり、高いジアステレオ選択性を持ち、収率は中程度である。この研究によって、非生物学的カルベン転移反応を細胞内で行って、幅広い天然物質や非天然物質を官能基化するスケールアップ可能な微生物プラットフォームが確立できた。この方法により、細胞内代謝によって産生できる有機化合物の範囲が拡大されるだろう。

