神経科学:海馬表現と踏み出しの間の動的な同期
Nature 617, 7959 doi: 10.1038/s41586-023-05928-6
海馬は、空間の神経表現を行う哺乳類の脳構造で、ナビゲーションに重要である。そしてナビゲーションは、ロコモーションに複雑に依存するが、現行の解釈では、海馬の空間表現と、移動過程の詳細は分離していると示唆されている。具体的には、海馬が位置・速度・運動方向など、主として高次の認知や移動の変数を表現すると考えられているのに対し、動物の体を推進させる四肢の動きは、主に脊髄・脳幹・小脳などの皮質下回路で演算・表現され得るとされている。しかし、海馬の表現が、移動過程の詳細な構造から実際に切り離されているかどうかは、まだ分かっていない。今回我々は、この問題に取り組むため、海馬の空間表現とロコモーションの基になる実行中の四肢運動を、速い時間スケールで同時にモニターした。その結果、自由行動ラットの前肢の踏み出し周期は律動的で運動中に約8 Hzのピークを示した。これは、ロコモーション中に海馬の活動と空間表現が約8 Hz変化することと一致する。また、前肢が地面に触れる時(踏み出し周期の「接地」時)と海馬の空間表現が、正確なタイミングで協調していることも分かった。注目すべきことに、接地時は、ラットの鼻の実際の位置に最も近い海馬空間表現と一致しているが、接地時と次の接地時の間に海馬空間表現は将来の位置になる可能性のある位置に向かって移行していた。こうした同期は、特にラットが進路選択を行う地点に近づいたときに検出された。まとめると今回の結果は、中枢の認知表現と末梢の運動過程の間に、数十ミリ秒の時間スケールでの密接かつ動的な協調が行われていることを明らかにしている。この協調は、認知的要求に応じて素早く接続・遮断され、認知回路と感覚–運動回路の間の高速情報交換を支えるのによく適している。

