Article

構造生物学:切断中のヒトDICER–miRNA前駆体複合体の構造

Nature 615, 7951 doi: 10.1038/s41586-023-05723-3

Dicerは低分子RNAの生合成に重要な役割を担っており、二本鎖RNA(dsRNA)のプロセシングを行う。ヒトDICER(hDICER、別名DICER1)は、マイクロRNA(miRNA)前駆体のような低分子ヘアピン構造の切断に特化しており、長鎖dsRNAに対する活性は限られており、その点が、長鎖dsRNAを切断する下等真核生物や植物のDicerホモログとは異なる。長鎖dsRNAの切断機構は詳しく研究されているが、触媒反応状態でのhDICERの構造が不明なため、miRNA前駆体のプロセシングについては完全には分かっていない。今回我々は、miRNA前駆体に結合して切断を行っている状態のhDICERのクライオ電子顕微鏡構造を決定し、miRNA前駆体のプロセシングの構造基盤を明らかにした。hDICERは、大規模なコンホメーション変化を経て活性状態に達する。ヘリカーゼドメインが可動性を獲得することにより、miRNA前駆体が触媒作用を持つ溝に結合できるようになる。二本鎖RNA結合ドメインは再配置され、配列に依存しない認識と、新たに見つかった「GYMモチーフ」の配列特異的な認識の両方を介して、miRNA前駆体を特定の位置に係留する。また、DICER特異的なPAZヘリックスも、RNAを受け入れられるように向きが変化する。さらにこの構造から、塩基性ポケットへ挿入されたmiRNA前駆体の5′末端の配置も明らかになった。このポケット内では、一群のアルギニン残基が5′末端の塩基(グアニンは忌避される)と末端の一リン酸を認識することから、hDICERの特異性と切断部位決定機構が説明できる。加えて、5′ポケット残基中のがん関連変異は、miRNA生合成を阻害することも分かった。これらの知見によって、hDICERが厳密な特異性を持ってmiRNA前駆体を認識する仕組みが明らかになり、hDICER関連疾患の発症機序を理解できるようになった。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度