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免疫学:インフルエンザのワクチン接種から明らかになった、以前の軽症COVID-19による性的二型性のインプリンティング

Nature 614, 7949 doi: 10.1038/s41586-022-05670-5

急性のウイルス感染は、回復後かなりたってからでも免疫系に持続的な機能的影響を与えることがあるが、恒常的な免疫状態やその後の摂動に対する免疫応答にどのように影響を与えるかはほとんど分かっていない。今回我々は、長期的な多モード単一細胞解析(表面タンパク質、トランスクリプトーム、V(D)J配列)を含むシステム免疫学的手法を用いて、軽症で入院せずに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した健常者33人(診断後、平均151日経過)と、年齢と性別を対応させたCOVID-19罹患歴のない対照群40人について、インフルエンザワクチン接種に対するベースライン時の免疫状態と免疫応答を比較評価した。回復者では、ベースライン時でCOVID-19後の経過時間とは無関係にT細胞活性化シグネチャーが上昇しており、Toll様受容体をはじめとする自然免疫遺伝子の発現が単球で低下していた。COVID-19から回復した男性の場合、健常男性やCOVID-19から回復した女性に比べると、インフルエンザワクチン接種後の自然免疫応答、インフルエンザ特異的な形質芽球の応答、抗体応答が協調して高かった。その一因は、男性の回復者がワクチン接種後早期に高いIL-15応答を示す単球を持っていたことに加え、IL-15刺激後により多くのIFNγを産生することになる「仮想記憶」様CD8+ T細胞の割合が、ワクチン接種前から高かったことにある。さらに、回復者では、単球で抑制されていた自然免疫遺伝子の発現がワクチン接種後1日目から28日目にかけて増加し、結果として健康な対照者のワクチン接種前のベースラインレベルに近付いた。これに対して対照群では、これらの遺伝子の発現は1日目に低下し、28日目までにベースラインレベルに戻った。これらの知見から、軽症のCOVID-19には性的二型性の影響があることが明らかになり、ヒトでのウイルス感染は、抗原に依存しない様式でその後の免疫応答に影響する新たな免疫学的セットポイントを確立することが示唆される。

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