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構造生物学:SARS-CoV-2のレプリカーゼによる基質選択の構造基盤

Nature 614, 7949 doi: 10.1038/s41586-022-05664-3

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のRNA依存性RNAポリメラーゼは、複製–転写複合体(RTC)として知られる集合体の一部として、ウイルスRNAの合成を調整する。そのためRTCは、レムデシビルなどの臨床認可されている抗ウイルス性ヌクレオシド類似体の標的となっている。RTCによるウイルスRNAの忠実な合成には、新生RNAに取り込むのに、正しいヌクレオチド三リン酸(NTP)を認識する必要がある。効果的な阻害剤であるためには、抗ウイルス性ヌクレオシド類似体は、取り込みに関して天然のNTPと競合しなくてはならない。SARS-CoV-2のRTCがどのようにして天然NTP間の違いを識別するのか、また、抗ウイルス性ヌクレオシド類似体がどのようにNTPと競合するのか、詳細は分かっていない。今回我々は、クライオ電子顕微鏡を用いて、取り込まれようとする状態にある天然の各NTPと結合したRTCを画像化した。さらに、レムデシビルの活性代謝物であるレムデシビル三リン酸(RDV-TP)と結合したRTCも調べ、RDV-TPが、対応する天然のNTPであるアデノシン三リン酸よりも選択的に取り込まれることの構造基盤を明らかにした。これらの結果から、NTPの認識に必要な一連の相互作用が説明され、抗ウイルス薬の合理的設計を行うための情報が得られた。またこれらの解析から、nsp12のNiRAN(nidovirus RdRp-associated nucleotidyltransferase)ドメイン(ウイルスの増殖に不可欠な機能不明の触媒ドメイン)によるヌクレオチド認識についての手掛かりが得られた。このNiRANはグアノシン三リン酸に選択的に結合するため、このドメインがRNAの5′キャップの形成に役割を果たしているという説の裏付けとなる。

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