考古学:生体分子解析によって得られた古代エジプトの死体防腐処理に関する新たな知見
Nature 614, 7947 doi: 10.1038/s41586-022-05663-4
古代エジプト人の防腐処理によって死体を保存する能力は、古代から人々を魅了してきただけでなく、この極めて優れた化学的・儀式的処理が実際にどのように達成されたのかという疑問を絶えず提起してきた。今回我々は、考古学的分析、文献学的分析、残留有機物分析を統合して、古代エジプトにおける死体防腐処理の方法および経済について新たな光を投じる。我々は、エジプト・サッカラの第26王朝の死体防腐油処理作業場から回収された31点の土器に残されていた有機物を分析した。これらの器には内容物や用途に従って標識が付けられており、これによって、有機物をそれらのエジプト名や具体的な防腐処理作業と関連付けることができた。ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いることで、頭部の防腐処理や死体を覆う布の処理に使われた、香油または防腐油、タール、樹脂からなる特殊な混合物が複数明らかになった。サッカラの作業場に関する我々の研究は、墓の主の社会経済的地位を明らかにする微視的レベルの分析から得られる解釈を、古代エジプト社会についての巨視的レベルの解釈へと拡張するものである。また、現地に存在しない有機物が特定されたことで、古代エジプトの死体防腐処理者にミイラ製作に必要な物質をもたらした交易ネットワークの再構築が可能となった。こうした外来品への大きな需要は、地中海地域内での貿易(カイノキ属の落葉樹や球果植物の副産物など)と熱帯林地域との貿易(ダンマル樹脂やエレミ樹脂など)を共に促進した。さらに我々は、サッカラでは、antiuとsefet(古文書からよく知られ、通常、前者は「ミルラ〔没薬〕」または「香」、後者は「聖油」と訳される)がそれぞれ、球果植物の精油またはタールをベースとする混合物と、植物添加物を含む軟膏を意味することを示す。

