細胞生物学:ヒトセリン/トレオニンキノームの基質特異性の全容
Nature 613, 7945 doi: 10.1038/s41586-022-05575-3
タンパク質のリン酸化は、生物界で最も広く見られる翻訳後修飾の1つである。質量分析をベースとするリン酸化プロテオミクスの進歩により、これまでに9万カ所のセリンとトレオニンのリン酸化部位が明らかになり、そのうち数千カ所はヒトの疾患や生物学過程に関連していることが判明している。しかし、これらのリン酸化反応の大部分については、ヒトゲノムにコードされている300以上のプロテインセリン/トレオニン(Ser/Thr)キナーゼのうちのどれが関与して起こるのかがまだ分かっていない。今回我々は、合成ペプチドライブラリーを用いて、活性を持つと推定されるヒトSer/Thrキナーゼの84%以上に当たる、303のSer/Thrキナーゼの基質配列特異性のプロファイリングを行った。全体的に見て、キノームの基質特異性は予想以上に多様であり、負の選択性に左右される例が多いことが分かった。このキノーム規模のデータセットを用いて、ヒトSer/Thrリン酸化プロテオームで報告されている全てのリン酸化部位をコンピューターによってアノテーションし、これを基にそれぞれの部位をリン酸化する可能性の高いキナーゼを明らかにした。リン酸化部位のうち、関与すると推定されるプロテインキナーゼが既に報告されているごく少数のリン酸化部位に対しては、我々の予測が非常によく一致した。この方法を応用して、ホルモン、増殖因子、標的阻害剤、環境や遺伝的な摂動に対する組織や細胞株のシグナル伝達応答を調べたところ、経路の複雑さと補償に関する予想外の知見が得られた。総合すると、これらの研究によってヒトSer/Thrキノームに備わる内因的な基質特異性が判明し、細胞のシグナル伝達応答が明らかになり、リン酸化事象と生物学経路とを結び付ける基盤となる知見が得られた。

