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ウイルス学:コウモリのMERS-CoVの近縁ウイルスはACE2を機能的な受容体として利用する

Nature 612, 7941 doi: 10.1038/s41586-022-05513-3

中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)と数種のコウモリコロナウイルスは、ジペプチジルペプチダーゼ4(DDP4)を侵入受容体として利用する。しかし、NeoCoV(コウモリで発見されたMERS-CoVの既知の最近縁種)の受容体は、まだ明らかにされていない。今回我々は、シュードタイプウイルスの侵入アッセイを使って、NeoCoVとその近縁種であるPDF-2180が、スパイク(S)タンパク質上の受容体結合ドメイン(RBD)を介して特異的なコウモリのアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)オルソログを侵入受容体として効率よく結合し利用できること、また、あまり効率はよくないがヒトACE2を利用できることを見いだした。クライオ電子顕微鏡による解析により、タンパク質とグリカンの相互作用が関わるRBD–ACE2結合境界面が明らかになり、これはACE2を用いる他の既知のコロナウイルスのものとは異なっている。我々は、ヒトACE2の337-342番目のアミノ酸残基がNeoCoVの侵入を制限する分子決定基であり、一方でT510F RBD変異を有するNeoCoV Sのシュードタイプウイルスは、ヒトACE2を発現する細胞に効率よく侵入することを突き止めた。ポリクローナルな重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)抗体やMERS-CoV RBD特異的ナノボディは、NeoCoVやPDF-2180を交差中和しなかったが、1種類のACE2特異的抗体と、2種類のベータコロナウイルス広域中和抗体は、効率よくこれらの2つのシュードタイプウイルスを阻害した。本研究は、ACE2を侵入受容体として利用するMERS-CoV関連ウイルスについて報告し、受容体の無差別的な利用や潜在的な人獣共通感染症の脅威を明らかにしている。

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