がん:ヒト胎児の小脳細胞アトラスからは髄芽腫の起源と発がん機序の情報が得られる
Nature 612, 7941 doi: 10.1038/s41586-022-05487-2
髄芽腫(MB)は、小児の悪性脳腫瘍の中で最も多く見られるものだが、最も悪性度の高いサブグループ3の起源はいまだに解明されておらず、有効な標的治療法の開発が妨げられている。マウス小脳のこれまでの解析では、MBの構成の不均一性が完全に明確にはされていない。今回我々は、単離されたばかりのヒト胎児小脳の単一細胞プロファイリングを行って、MBの階層的な細胞状態を詳細に示した参照用マップを作製した。そして、発生中の胎児小脳で神経幹細胞とニューロン系列とを結び付ける独特な移行期小脳前駆細胞を明らかにした。細胞状態の共通点の分析によって、この移行期前駆細胞はサブグループ3や転移腫瘍を含めた悪性度の高いMBに集中して、より多く見られることが明らかになった。単一細胞でのマルチオミクス解析により、この移行型前駆細胞集団を支える調節ネットワークが明らかになった。それには転写決定因子HNRNPH1とSOX11が関わっており、この2つはMBのグループ3の臨床予後と相関している。ゲノムプロファイリングとHi-Cプロファイリングによって、長い距離にまたがる新規なクロマチンループが見つかり、このループがHNRNPH1/SOX11が標的とするスーパーエンハンサーを、グループ3のMBの発がんドライバーの1つであるMYCのシス調節エレメントに隣接させることが分かった。移行期前駆細胞の調節要素を標的にすると、MYCの発現やMYCが促進するグループ3のMBの増殖が阻害された。我々が作製したこのヒト胎児小脳とMBの総合的な単一細胞アトラスから、形質転換を起こしやすい細胞集団候補と、腫瘍細胞の状態と発がんの基盤となる調節回路群が示され、MBの予後や治療に対する感受性の予測に役立つ、これまで知られていなかった移行期前駆細胞中間体の存在が明らかになった。

