ナノスケールデバイス:分子鎖の「記録テープ」を読み取る分子ラチェット
Nature 612, 7938 doi: 10.1038/s41586-022-05305-9
細胞は、チューリングマシンによく似たやり方で情報を処理し、分子のテープから自律的にデータを読み取って、それを出力に変換している。分子鎖から構成要素を成長するオリゴマーへと順次移していくロタキサンのように、環を貫通するポリマーを誘導体化できる、ランダムに進行する大環状触媒が報告されている。しかし、人工分子テープに記憶された情報の読み取りや書き込みを行える合成小分子マシンは、まだ実現困難である。今回我々は、化学燃料パルスによって、クラウンエーテル(「読み取りヘッド」)が、溶液から符号化された分子鎖(「記録テープ」)へと送り込まれる分子ラチェットについて報告する。さらなる燃料パルスによって、クラウンエーテルは、エネルギーラチェット機構を介してテープの一連のコンパートメントを通って輸送された後、分子鎖のもう片方の端から取り外されてバルクへと戻される。この方向性輸送の間、クラウンエーテルは、途中の結合部位の立体化学に従ってコンホメーションを変える。これによって、テープにプログラムされた立体化学的な情報配列を、円偏光二色性応答の変化を通した非破壊的なやり方で数字列として読み出すことが可能になる。この概念は、平衡3進数の数字列(トリット)−1,0,+1および−1,0,−1を持つ分子テープを読み取ることによって例示されている。今回の小分子ラチェットは、有限状態オートマトンで、文字列に符号化された状態配列を通して一方向に移動する特殊な場合のチューリングマシンであり、占有されたマシン状態に依存する出力を与える。今回の小分子ラチェットは、分子テープに沿って駆動される人工ナノマシンの方向性運動を用いた情報の読み取り、そして最終的には書き込みへの道を開く。

