Article

細胞生物学:細胞外液の粘度が細胞の遊走とがんの播種を促進する

Nature 611, 7935 doi: 10.1038/s41586-022-05394-6

細胞は、剛性、液体の剪断応力、水圧といった物理刺激に応答する。細胞外液の粘度は、生理的条件やがんなどの病的条件に応じてさまざまに変化する重要な物理的合図の1つである。しかし、細胞外液の粘度ががんの生物学的性質に及ぼす影響や、細胞が粘度変化を感知してそれに応答する機構は不明である。今回我々は、高い粘度は直感に反して、二次元表面上および閉鎖空間でのさまざまな細胞タイプの運動性を増大させ、三次元の腫瘍スフェロイドからの細胞の播種を増加させることを実証する。高い粘度によってもたらされた機械的負荷の増加が、アクチン関連タンパク質2/3(ARP2/3)複合体に依存した高密度アクチンネットワークを誘導し、これがアクチンの結合相手であるエズリンを介してNa+/H+交換輸送体1(NHE1)の分極を促進する。NHE1が細胞の膨張を促進して膜張力を上昇させると、次にこれがTRPV4(transient receptor potential cation vanilloid 4)を活性化してカルシウムの流入を引き起こすため、RHOAに依存した細胞の収縮性の上昇につながる。アクチンのリモデリング/動態、NHE1を介した膨張、RHOAによる収縮性が協調的に働くことにより、高い粘度で運動性の増大が促進される。高い粘度にあらかじめ曝露した乳がん細胞は、Hippo経路の転写制御を介してTRPV4に依存した機械的刺激記憶を獲得し、それがゼブラフィッシュでは遊走の増加に、ニワトリ胚では管外遊出に、マウスでは肺でのコロニー形成につながった。総合すると、細胞外の粘度は短期的細胞過程と長期的細胞過程の両方を調節する物理的合図であり、がん生物学的性質に関連する病態生理に大きな意味を持つと言える。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度