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エピジェネティクス:SARS-CoV-2はヒストンを模倣して宿主のエピジェネティック調節を阻害する

Nature 610, 7931 doi: 10.1038/s41586-022-05282-z

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は2019年の終わりに出現し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の壊滅的なパンデミック(世界的大流行)を引き起こした。その原因の1つは、宿主細胞応答を効率よく抑制するこのウイルスの能力にある。まれに、ウイルスタンパク質がヒトのヒストンタンパク質の重要な領域、具体的には転写調節に必要な翻訳後修飾を含む領域を模倣することによって、抗ウイルス応答を低下させることがある。最近の研究では、SARS-CoV-2が宿主細胞のエピジェネティック調節を著しく阻害することが明らかにされている。しかし、SARS-CoV-2がどのようにして宿主細胞のエピゲノムを制御するのか、また、そうするためにヒストンの模倣を行うのかどうかは明らかになっていない。今回我々は、ORF8がコードするSARS-CoV-2タンパク質(ORF8)が、ヒストンH3のARKSモチーフを模倣してヒストンとして振る舞うことで、宿主細胞のエピジェネティック調節を阻害することを示す。ORF8はクロマチンに結合してヒストンの重要な翻訳後修飾の調節を阻害し、クロマチンの凝縮を促進する。ORF8遺伝子あるいはヒストン模倣部位を欠失させると、宿主細胞のクロマチンを阻害するSARS-CoV-2の能力が減弱し、感染に対する転写応答に影響が見られ、ウイルスゲノムのコピー数が減少した。これらの結果によって、ORF8の新たな機能と、SARS-CoV-2が宿主細胞のエピジェネティック調節を阻害する機構が実証された。さらに本研究は、ORF8を欠損したSARS-CoV-2がCOVID-19の重症度の低下と関連しているという知見の分子的な根拠を示している。

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