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生化学:NMRを手掛かりにする指向性進化法

Nature 610, 7931 doi: 10.1038/s41586-022-05278-9

指向性進化法は、タンパク質の持つ既存の性質を改良したり、全く新しい機能を持たせたりするための強力な手法である。とは言うものの、小さいタンパク質の場合でさえ考え得るアミノ酸配列が天文学的な数に上るため、それがこの方法が持つ可能性に対する本質的な制約となっている。100残基のタンパク質の完全なアミノ酸配列空間を調べるには、20100通りの組み合わせを試す必要があるが、これは既存のどのような実験方法でも手が届かない。ただ実際のところ、既存のタンパク質を効率よく改良したり、機能を高めたり、別の機能を持たせたりするには、比較的少数の残基を選んで修飾するだけで十分である。その上、有益な変異につながる可能性のある残基の位置や、場合によっては種類を予測するための計算機的手法も開発されている。ただ重要なのは、変異のホットスポットや有益な変異の予測のために現在使われている手法が全て、構造情報やバイオインフォマティクスに大きく依存していることで、目的とするタンパク質について、必ずしもこのような情報が得られるとは限らない。また、活性部位から離れた位置の変異は酵素の触媒特性を著しく改善する可能性があるが、現在使われている手法はこういった有益な変異を見つける能力が限られている。最近、機械学習を用いる手法が有益な変異の予測に有望なことが明らかになっているが、それには多くの場合、大量の高品質な訓練用データセットが必要であり、指向性進化実験ではこのようなデータの入手は難しい。今回我々は、酵素中の変異のホットスポットが、核磁気共鳴(NMR)分光法を使って突き止められることを示す。概念証明実験を行ったところ、酵素ではない酸素貯蔵タンパク質ミオグロビンを、わずか3個の変異を使って、非常に効率の高いケンプ脱離反応を触媒する酵素に変換できた。この進化した酵素で観察された触媒活性は、現在使われている手法を使って設計されたタンパク質の活性を上回っており、これらの反応を触媒するように進化してきた天然の酵素の活性と同程度だった。この実験手法は単純で、事前に構造情報やバイオインフォマティクス情報が不要なことを考えると、幅広い応用が可能であり、酵素の指向性進化の持つ可能性が最大限に生かせるようになると期待される。

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