構造生物学:エボラウイルスポリメラーゼ複合体の構造
Nature 610, 7931 doi: 10.1038/s41586-022-05271-2
エボラウイルスをはじめとするフィロウイルスは、公衆衛生上の大きな脅威になってきている。エボラウイルス病の治療薬としては、2種類のモノクローナル抗体が認可されているが、多様なフィロウイルスの感染を制御できるような幅広い反応性を持つ薬剤はまだ認可されていない。フィロウイルスは大型のポリメラーゼ(L)タンパク質と、ウイルスタンパク質35(VP35)という補因子を持ち、これらがウイルスのゲノムRNA合成を行う基本的な機能単位を構成している。このL–VP35ポリメラーゼ複合体は保存されているので、広範囲にわたる反応性を持つ抗ウイルス薬の有望な標的と言える。今回我々は、クライオ電子顕微鏡を用いて、VP35四量体と複合体を形成したエボラウイルスLタンパク質(状態1)の構造を決定した。構造解析により、エボラウイルスのLタンパク質にはフィロウイルス特有の挿入エレメントがあり、これがRNA合成に不可欠であることと、VP35四量体の3個のプロトマーが、Lタンパク質のN末端領域と広く相互作用していることが明らかになった。また、ポリメラーゼの活性部位から離れたプライミングループと支持ヘリックスが明瞭に見える、第2のコンホメーションをとっている複合体(状態2)の構造も捉えた。さらに、100年前から使われている薬剤スラミンによって、このエボラウイルスポリメラーゼの活性を阻害できることも、酵素アッセイで実証した。L–VP35–スラミン複合体の構造から、スラミンはよく保存されているNTP進入チャネルに結合して、基質が活性部位に入るのを妨げることが分かった。これらの知見は、エボラウイルスの複製機構を明らかにしたもので、もっと強力な抗フィロウイルス薬の開発を導くかもしれない。

