発生生物学:グルコース誘導性のTOR–FIE–PRC2シグナル伝達は植物の発生を制御する
Nature 609, 7929 doi: 10.1038/s41586-022-05171-5
動植物においては、栄養素とエネルギーが発生プログラムの中心的な調節因子であることが明らかになってきている。進化的に保存されたTOR(target of rapamycin)キナーゼは、成長を制御する栄養素とエネルギーのシグナル伝達を統合するマスター因子である。TORは翻訳、増殖、代謝、オートファジーの調節に重要な役割を担っているが、TORが発生変化や分化を方向付ける仕組みはほとんど解明されていない。今回我々は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)において、グルコースで活性化されたTORキナーゼがゲノム規模でヒストンH3のK27のトリメチル化(H3K27me3)を制御し、これが細胞運命と発生を調節することを示す。我々はまた、H3K27me3を触媒するポリコーム抑制複合体2(PRC2)の必須構成要素であるFERTILIZATION-INDEPENDENT ENDOSPERM(FIE)が、TORの標的であることを明らかにした。TORによる直接的なリン酸化は、FIEの細胞質から核への動的な移動を促進した。FIEのリン酸化部位を変異させると、H3K27me3が全体的に失われ、トランスクリプトームの再プログラム化が起こり、植物体での器官形成が妨げられた。さらに、グルコース–TOR–FIE–PRC2シグナル伝達は、春化によって誘発される花芽形成も調節した。このシグナル伝達軸は、栄養のチェックポイントとして機能することにより、重要な転写因子遺伝子(芽や根の分裂組織中にある幹細胞の運命を指定して、葉や花、長角果のパターン形成、分枝、栄養成長から生殖成長への移行を制御する)の発現をエピジェネティックにサイレンシングすると考えられる。これらの知見は、エピゲノムの直接的な再プログラム化における栄養シグナル伝達の基本機構を明らかにするものであり、多細胞生物の発生制御に広く関連する。

