コロナウイルス:SARS-CoV-2のRNAキャップ形成機構
Nature 609, 7928 doi: 10.1038/s41586-022-05185-z
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のRNAゲノムは、ウイルスタンパク質の翻訳やエキソヌクレアーゼからの保護、宿主免疫応答の回避を促進する5′キャップを持つ。しかし、このキャップがSARS-CoV-2でどのように作られるのか完全には分かっていない。今回我々は、ウイルスがコードする非構造タンパク質(nsp)を用いて、N7と2′-Oがメチル化されたSARS-CoV-2 RNAキャップ(7MeGpppA2′-O-Me)を再構成した。我々は、nsp12のキナーゼ様のNiRAN(nidovirus RdRp-associated nucleotidyltransferase)ドメインが、RNAをnsp9のアミノ末端へ転移させ、これによって共有結合性のRNA–タンパク質中間体が形成されることを示す(この過程はRNAylationと呼ばれる)。続いて、NiRANドメインはRNAをGDPへ転移させ、コアとなるキャップ構造であるGpppA-RNAを形成する。その後、nsp14やnsp16のメチルトランスフェラーゼがメチル基を付加して、機能的なキャップ構造を形成する。nsp9に結合した複製–転写複合体の構造解析により、このキャップ形成反応を仲介する重要な相互作用が明らかになった。さらに我々は、逆遺伝学の系において、SARS-CoV-2の複製の成功にはnsp9のN末端とNiRANドメイン内のキナーゼ様活性部位の残基が必要であることを示す。まとめると我々の結果は、SARS-CoV-2がそのRNAゲノムにキャップを付加する非従来型の機構を明らかにしており、従って新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療のための抗ウイルス薬開発における新規標的を示している。