遺伝学:DOCK2は重症COVID-19における宿主の遺伝的特徴と生物学的特徴に関与する
Nature 609, 7928 doi: 10.1038/s41586-022-05163-5
重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の根底にある宿主の遺伝的因子を明らかにすることが、新たな課題となっている。今回我々は、パンデミック(世界的大流行)の初期の波に際して収集された日本人コホートのCOVID-19患者2393例と、対照の一般集団3289例を対象に、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。その結果、5番染色体の5q35領域で、DOCK2(dedicator of cytokinesis 2遺伝子)の近傍に、65歳未満の重症COVID-19患者と関連するバリアント(rs60200309-A)が発見された。このリスク対立遺伝子は、東アジア人集団には高頻度に認められるがヨーロッパ人集団にはまれであり、これは、非ヨーロッパ人集団でのゲノムワイド関連解析の価値を浮き彫りにしている。末梢血球試料473点でのRNA塩基配列解析の結果、非高齢患者でリスク対立遺伝子に関連するDOCK2の発現低下が見いだされた。また、COVID-19の重症例ではDOCK2の発現が抑制されていた。単一細胞RNA塩基配列解析を実施したところ(対象者数n = 61)、DOCK2の細胞タイプ特異的な遺伝子発現抑制、および非古典的単球のDOCK2発現に対するリスク対立遺伝子のCOVID-19特異的な発現抑制効果が明らかになった。重症COVID-19肺炎患者の肺試料の免疫組織化学的特徴は、DOCK2発現の抑制を示していた。さらに、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染のシリアンハムスター(ゴールデンハムスター)モデルでCPYPPを投与してDOCK2の機能を阻害すると、体重減少、肺水腫、ウイルス量の増加、マクロファージ遊走の減少、I型インターフェロン応答の調節異常が認められ、肺炎の重症度が上がった。以上のことから、我々は、DOCK2はSARS-CoV-2感染に対する宿主免疫応答および重症COVID-19の発症で重要な役割を担っており、潜在的なバイオマーカーや治療標的としてさらに検討され得るものであると結論付ける。