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免疫学:ケトン生成障害は代謝をCOVID-19におけるT細胞機能障害と結び付ける

Nature 609, 7928 doi: 10.1038/s41586-022-05128-8

食欲不振や絶食は急性感染に対する宿主の適応であり、ケトン生成へ代謝を切り替え、β-ヒドロキシ酪酸(BHB)などのケトン体の産生を誘導する。しかし、ケトン生成が肺感染時の免疫応答に代謝的影響を及ぼすのかどうかは明らかになっていない。今回我々は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって誘導された急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の患者では、BHBの産生が障害されているが、インフルエンザによって誘導されたARDSの患者ではBHBの産生が障害されていないことを示す。BHBはCD4+ T細胞の生存と、CD4+ T細胞によるインターフェロンγ産生の両方を促進することが分かった。我々は代謝追跡解析を行い、BHBが代替炭素源となり、酸化的リン酸化(OXPHOS)、および生体エネルギー源となるアミノ酸とグルタチオンの産生を促すことを明らかにした。グルタチオンは、酸化還元バランスの維持に重要である。SARS-CoV-2によるARDS患者由来のT細胞は疲弊し、解糖へ偏っていたが、BHBによる代謝的な再プログラム化によりOXPHOSを行い、T細胞の機能性を高めることができた。また我々は、マウスにおいてケトン食やケトンエステル飲料としてのBHB送達が、重症の呼吸器感染でCD4+ T細胞の代謝や機能が回復し、最終的にSARS-CoV-2感染マウスの死亡率を減少させることを示す。以上より、我々の結果は、BHBが、肺のウイルス感染でT細胞応答を促進する代替炭素源であり、またケトン生成障害が重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における交絡因子である可能性を示している。

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