がん:細胞–マトリックス界面がヒト大腸がん幹細胞の休眠を制御する
Nature 608, 7924 doi: 10.1038/s41586-022-05043-y
化学療法後のがん再燃は、依然としてがん関連死の主な原因の1つである。残存するがん幹細胞の増殖が、がん再燃の原因であると考えられているが、十分な時空間分解能でがん幹細胞の動態の前向き解析を行うことのできる実験プラットフォームの欠如により、この仮説の実証には至っていない。今回我々は、ヒト大腸がんオルガノイドを用いた異種移植腫瘍において個々の細胞を長期間にわたって追跡可能とする生体内遺伝的細胞系譜解析系を開発し、化学療法を受けていない状態で休眠しているLGR5+がん幹細胞の存在を明らかにした。休眠状態のLGR5+細胞はp27の発現を特徴とし、また生体内画像化により、LGR5+p27+細胞は化学療法中も生き残り、その後のクローン増殖につながることが直接的に証明された。また、トランスクリプトーム解析から、ヘミデスモソームを強化する細胞接着分子であるCOL17A1が、休眠状態のLGR5+p27+細胞で発現上昇していることが明らかになった。COL17A1をノックアウトしたオルガノイドには休眠状態のLGR5+p27+細胞亜集団が存在せず、化学療法に感受性を示すようになる。この結果は、細胞–マトリックス界面ががん幹細胞の休眠状態を維持する役割を担っていることを示唆している。さらに、化学療法によってCOL17A1が破壊されると、LGR5+p27+細胞はFAK–YAP活性化を介して休眠状態から脱出することが示された。このYAPシグナル伝達を阻害すると、化学療法抵抗性細胞の休眠状態からの脱出が阻止され、腫瘍の再増殖が遅延したことから、YAP阻害ががんの再燃を防ぐ効果を持つことが明らかになった。これらの結果は、従来の化学療法に対するヒト大腸がんの治療抵抗性を克服する、臨床で実行可能な新たな治療法につながると期待される。

