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神経科学:死後のマウスとヒトの網膜における光シグナル伝達の回復
Nature 606, 7913 doi: 10.1038/s41586-022-04709-x
死は、循環・呼吸・脳活動の不可逆的な停止をもって定義される。ヒトの多くの末梢器官は、生存能を最大限に保つプロトコルを使って、死亡した提供者から移植が可能である。しかし、中枢神経系組織は循環が途絶すると速やかに生存能を失い、移植の可能性が妨げられる。ニューロン死の時間経過とそれが起こる機構、そしてその回復可能性は、まだ十分に解明されていない。今回我々は、網膜を中枢神経系のモデルとして用いて、ニューロンの死と回復の動力学を体系的に検討した。我々は、死後のマウスとヒトの網膜において、ニューロンのシグナル伝達の急速な低下を実証するとともに、同期的in vivo様シナプス間伝達を回復させる条件を明らかにした。また我々は、死後5時間以内に摘出されたヒトの眼の黄斑光受容器において光誘発反応を計測し、死後の光シグナル伝達の可逆的・不可逆的消失をもたらす複数の修飾可能因子を特定した。さらに我々は、ヒトとカニクイザルの網膜の末梢部と黄斑において、光シグナル伝達の律速的脱活性化反応(Gタンパク質シグナル伝達カスケードのモデル)を定量化した。今回の手法は、ヒト中枢神経系の斬新な研究を可能にすることで広い適用範囲と影響力を持ち、ニューロン死の不可逆性について疑問を投げ掛けるとともに、視覚リハビリテーションに向けての新たな道筋を示す。

