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エピジェネティクス:卵母細胞のTET3不足を介する耐糖能異常の母性遺伝

Nature 605, 7911 doi: 10.1038/s41586-022-04756-4

糖尿病は生殖年齢の女性に広く見られ、診断が下されていなかったり、治療されていなかったりすることが多い。妊娠糖尿病は、生まれる子どもの長期的な健康に長く続く深刻な影響を及ぼす。しかし、糖尿病合併妊娠と次世代が成人になった時の疾患リスクとの関連は十分に調べられてるとは言えない。今回我々は、妊娠前からの高血糖によって、その子孫が耐糖能異常になりやすくなることを明らかにした。高血糖のマウスモデル(HGマウス)や糖尿病患者由来の卵母細胞では、接合子で5-メチルシトシン酸化とDNA脱メチル化の役割を担うTET3ジオキシゲナーゼの発現が減少していた。卵母細胞のTET3による脱メチル化が不十分だと、グルコキナーゼ遺伝子(Gck)をはじめとする複数のインスリン分泌遺伝子の父性対立遺伝子が高メチル化状態になる。この状態は接合子から成体になるまで持続し、それによってグルコース刺激によるインスリン分泌がうまく行われなくなることが主な原因となって、グルコースの恒常性維持の障害が促進される。これらの知見と一致して、Tet3遺伝子欠失のヘテロ接合やホモ接合である母親の卵母細胞由来の子孫マウスには、HGマウスの卵母細胞由来の子孫マウスと同様な耐糖能異常とエピジェネティックな異常が見られた。また、HGマウスの卵母細胞で外来のTet3 mRNAを発現させると、母親からの子孫への影響が軽減された。このように、今回の観察結果は、卵母細胞の発生には環境の影響を受けやすい時期があって、これが卵母細胞エピゲノムの直接的な乱れを介してではなく、TET3の不足を介して、次世代に耐糖能異常の素因をもたらすことを示唆している。この知見は、母親への妊娠前の治療介入が、生まれてくる仔の健康を守るのに役立つ可能性を示している。

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