Article
分子生物物理学:ヒトの有糸分裂染色体の非線形力学的性質
Nature 605, 7910 doi: 10.1038/s41586-022-04666-5
ヒト細胞の核DNAは有糸分裂に備えて凝縮し、個々に分かれたX字形の染色体になる。この形態変化は、主としてコンデンシンとトポイソメラーゼIIα(TOP2A)の作用の組み合わせによって進行し、100年以上にわたって顕微鏡を使って観察されてきた。しかし、有糸分裂染色体の構造的構成については、ほとんど解明されていない。今回我々は、光トラップによる操作を使ってヒト染色体の構造的構成を調べる方法を報告する。この方法では、天然状態の分裂中期染色体の高分解能での力測定と蛍光画像化を、厳密に制御した実験条件下で行うことができる。この方法を用いて、染色体の力学的性質と構造の特徴を詳細に調べた。その結果、機械的負荷を増やしていくと染色体が非線形的に硬化していくという挙動が見られた。これは、古典的なポリマーモデルでの予想とは異なっている。我々は、この異例な硬化を説明するため、染色体を非線形みみず鎖(nonlinear worm-like chain)の不均一な集合体として記述する、階層的みみず鎖モデルを考案した。さらに、誘導可能なTOP2A分解を有糸分裂特異的に起こすことにより、TOP2Aが染色体凝縮の保持に役割を担っていることの証拠を得た。今回用いた手法は、正常な染色体と疾患に関連する染色体の両方の構造や動態を調べる幅広い研究に、新たな道を開くだろう。

