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コロナウイルス:ヒト細胞に感染性のあるSARS-CoV-2関連コウモリコロナウイルス

Nature 604, 7905 doi: 10.1038/s41586-022-04532-4

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の関連ウイルスはアジアに生息するキクガシラコウモリ属(Rhinolophus)のコウモリやセンザンコウで報告されているが[例えば、最も近縁のウイルスであるRaTG13はナカキクガシラコウモリ(R. affinis)で見つかっている]、SARS-CoV-2の動物宿主は不明である。SARS-CoV-2はモザイク状のゲノムを持ち、これには異なる複数の祖先株が寄与している。スパイクの受容体結合ドメイン(RBD)のアミノ酸配列によって、細胞のアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に対するRBDの結合親和性やアクセシビリティーが決まり、宿主域が規定される。SARS-CoV-2の祖先となったコウモリウイルスはエピデミックの発生源を理解する上で重要だと考えられるが、SARS-CoV-2に遺伝学的に近縁で、ヒトACE2(hACE2)経路を介してヒト細胞に侵入できるコウモリウイルスはまだ特定されていなかった。今回我々は、そのようなウイルスが、インドシナ半島のラオス北部の石灰岩カルスト地域に生息する洞窟コウモリに流行していることを示す。これらのウイルスのRBDは、SARS-CoV-2のRBDと比べてACE2との接触面に1、2残基の違いしかないことや、武漢で分離された初期のヒト症例由来のSARS-CoV-2株のRBDよりも効率よくhACE2タンパク質と結合すること、そして、ヒト細胞におけるhACE2依存的な侵入や複製を担っていて、それがSARS-CoV-2を中和する抗体によって阻害されることが明らかになった。これらのコウモリウイルスはいずれも、スパイクタンパク質にフリン切断部位を持たない。従って我々の結果は、ヒトに感染する可能性のあるコウモリ由来のSARS-CoV-2様ウイルスが、インドシナ半島のキクガシラコウモリ属の種において流行していることを示している。

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