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光化学:単一分子光電流チャネルの軌道分解可視化

Nature 603, 7903 doi: 10.1038/s41586-022-04401-0

光エネルギー利用における中心的な役割を考慮して、励起分子からの光誘起電子移動(PET)が広く研究されてきた。顕微技術を用いた光電流計測方法によって、PET過程の効率と局所的特徴を関連付けられるようになったが、空間分解能は分子レベルで解像できるほど高くはなかった。しかし、最近の研究では、走査型トンネル顕微鏡(STM)と、波長可変レーザーによって駆動される局在プラズモン場を組み合わせると、単一分子を効率よく励起して探査できることが示されている。今回我々は、その手法を用いて励起状態を形成し、STMの探針を通して第一励起状態からトンネリングする電子を検出することによって、単一のフリーベースフタロシアニン(FBPc)分子の分子軌道を経由する光電流チャネルを原子スケールの分解能で直接可視化した。我々は、光電流の方向と空間分布がバイアス電圧に敏感に依存することを見いだし、平均光電流がほぼゼロになる電圧でも逆向きに流れる光電流チャネルを検出した。さらに我々は、PETとフォトルミネッセンスが競合することを示す証拠を観測しており、三次元原子精度でSTM探針を配置することによって、主に励起分子の緩和がPETを通して起こるのかフォトルミネッセンスを通して起こるのかを制御できることを見いだした。こうした観測結果から、励起状態分子軌道との結合の調整によって、特定の光電流チャネルを増強したり抑制したりできることが示唆され、ひいては原子スケールでの分子界面の電子的操作や幾何学的操作によるエネルギー変換効率の向上に新たな視点が得られる。

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