構造生物学:動的なタンパク質アンサンブル中の高エネルギー状態の構造決定
Nature 603, 7901 doi: 10.1038/s41586-022-04468-9
高分子の機能には、タンパク質の高エネルギー状態へのコンホメーション変化がしばしば必要となる。しかし、このような機能的に必須で出現頻度が少ない状態の構造を解くための方法はまだない。今回我々は、出現頻度が少ない状態の高分解能構造を決定するための方法を、NMR分光法により得られる擬コンタクトシフト(PCS)をCarr–Purcell–Meiboom–Gill(CPMG)緩和分散と組み合わせることにより開発した(PCS–CPMG法)。我々の手法により、対応する動力学性質と高エネルギー偏位の熱力学的性質がさらに明確になり、それらによって全体的な自由エネルギー地形が特徴付けられる。アデニル酸キナーゼ(Adk)、カルモジュリン、Srcキナーゼに対する大規模シミュレーションデータを用いて、高エネルギーPCSが高エネルギー構造を正確に(3.5 Å以下の平均二乗偏差で)決定できることが分かった。我々の方法論を触媒作用中のAdkへと適用したところ、高エネルギー偏位状態には、「ふた」のように被さっているAMPとATPの間の予想以上に小さい開口が関わっていることが明らかになった。以前には解像されていなかったこの高エネルギー構造によって、触媒反応を律速しているコンホメーション相互変換に関する長く続いていた論争が解決される。Adkの高エネルギー構造(基質結合、もしくは生成物放出により準備される)は、この状態へのコンホメーション選択と、それに続くリン酸転移反応を触媒するための完全に閉じた状態への誘導適合過程を結び付けている2段階機構の存在を示唆している。クライオ電子顕微鏡法やX線結晶学的方法のような高エネルギー状態を解像するための他の方法とは異なり、我々の開発したPCS–CPMG法は、小さな系(60 kDa以下)のドメイン再配置を含み、存在頻度が0.5%程度と低い場合に優れており、タンパク質がその機能を実行している際の構造と動力学および熱力学的性質の同時決定が可能である。

