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ウイルス学:1つのヒトモノクローナル抗体による広範囲のサルベコウイルスの中和

Nature 597, 7874 doi: 10.1038/s41586-021-03817-4

最近の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の懸念される変異株の出現と、コロナウイルスのヒト集団への異種間伝播の頻発は、連続抗原変異(ドリフト)の進行による影響を受けずに、今後の人獣共通感染症を予防あるいは治療できる広域中和抗体の必要性を浮き彫りにしている。今回我々は、S2X259と名付けたヒトモノクローナル抗体について報告する。S2X259は、受容体結合ドメインの高度に保存された潜在性エピトープを認識し、サルベコウイルス亜属の全てのクレードのウイルスのスパイクと交差反応する。S2X259は、懸念される変異株(B.1.1.7、B.1.351、P.1、B.1.427/B.1.429)を含むSARS-CoV-2に加え、ヒトおよび人獣共通感染を引き起こす可能性がある広範なサルベコウイルスのスパイク受容体結合ドメインがアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)と結合するのを阻害することで、スパイクを介した細胞への侵入を広く中和する。さらに、詳細な変異スキャニングとin vitroでの回避選択実験から、S2X259を回避するのは単一の置換G504Dに限定されるというプロファイルが明らかになった。ゴールデンハムスター(Mesocricetus auratus)は、S2X259の予防的および治療的な投与によって、SARS-CoV-2原株や懸念される変異株B.1.351によるチャレンジから防御されることが分かった。これは、このモノクローナル抗体が新しく生じた変異株や人獣共通感染症の予防や治療に有望な候補であることを示唆している。我々のデータは、広域中和抗体の標的となる重要な抗原部位を明らかにしており、全てのサルベコウイルスに対して有効なワクチンの設計を導くと考えられる。

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