Article

腫瘍生物学:NSD3のヒストンメチル化活性亢進は肺扁平上皮がんを進行させる

Nature 590, 7846 doi: 10.1038/s41586-020-03170-y

染色体の8p11–12領域の増幅はよく見られる遺伝的変化で、肺扁平上皮がん(LUSC)の病因に関わるとされている。この領域にあって、腫瘍発生ドライバー遺伝子である可能性が非常に高いのがFGFR1遺伝子である。しかし、FGFR1を阻害する標的治療を評価する臨床試験では、望ましい結果は得られていない。今回我々は、ヒストンH3リシン36(H3K36)メチルトランスフェラーゼで、8p11–12増幅領域に遺伝子が存在するNSD3が、LUSC腫瘍発生の重要な調節因子であることを明らかにする。8p11–12領域にある他のLUSCドライバー遺伝子候補とは対照的に、NSD3の発現上昇はその遺伝子の増幅と強く相関していた。LUSCのマウスモデルでNSD3を除去すると、腫瘍増殖が抑制されて生存期間が長くなったが、FGFR1の除去ではこれらの効果は見られなかった。LUSCに関連するバリアントとして、in vitroおよびin vivoでH3K36ジメチル化(H3K36me2)触媒活性が高まっているNSD3(T1232A)が見つかった。構造的動態の解析から、T1232A置換によってNSD3の触媒ドメイン全体にわたって局所的な可動性が引き起こされ、自己阻害が解除されて、基質であるH3に近付きやすくなることが明らかになった。LUSCのマウスモデルでNSD3(T1232A)をin vivoで発現させると、腫瘍発生が加速して全生存率が低下した。NSD3(T1232A)による病原性H3K36me2の生成では、クロマチンの全体像が再プログラム化され、発がん性の遺伝子発現シグネチャーが増進された。またNSD3は、その触媒活性に依存してヒト気管支細胞の形質転換を促進し、8p11–12領域が増幅されたヒトLUSC細胞株異種移植片の増殖を促進した。NSD3の増幅、もしくはNSD3(T1232A)をコードするバリアントを含む原発性LUSCからの患者由来異種移植片でNSD3を枯渇させると、マウスでの腫瘍性増殖が抑制された。さらに、NSDの調節下にあるLUSC由来異種移植片は、ブロモドメインの阻害に極めて高い感受性を示した。従って今回の研究は、NSD3が、LUSCにおける8p11–12の増幅に関連する主要な発がんドライバー遺伝子であることを明らかにするとともに、LUSCは、NSD3依存性を持つために治療法としてのブロモドメイン阻害に対し高い感受性を示すことを示唆している。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度