古海洋学:北極海が淡水で厚い棚氷に覆われていた氷期の期間
Nature 590, 7844 doi: 10.1038/s41586-021-03186-y
過去に北極に棚氷が存在した可能性に関する初期の仮説を受けて、現在の海水準の下1000 mの深さにある独特な侵食地形が観測されたため、北極海中央部のロモノソフ海嶺などに厚い氷の層が存在したことが裏付けられた。最近は、モデル研究により、氷期に棚氷がどのように増大し、北極海の大部分を覆うに至った可能性があるかを明らかにする取り組みが行われている。しかしこれまでのところ、北極域のこうした広大な棚氷に関して、海底堆積物についての反論の余地のない特性評価は行われておらず、氷期の状況が北極海に与えた影響について疑問が投げ掛けられている。今回我々は、北極海および隣接するノルディック海が、広大な棚氷に覆われていただけでなく完全に淡水で満たされており、そのため海底堆積物中のトリウムが広範囲にわたり欠乏していた期間が少なくとも2回存在したことを示す証拠を提示する。我々は、これらの北極の淡水期が、それぞれ海洋酸素同位体ステージ4と6に相当する、7万〜6万2000年前と約15万〜13万1000年前に生じていたと提案する。北極域の堆積物記録における、石灰質ナンノ化石である円石藻Emiliania huxleyiの最初の出現について別の解釈をすると、より古い期間の年代がより新しいと示唆されることになる。今回の手法は、堆積速度の解釈の相違につながり、年代測定目的の使用を妨げてきた、北極域のトリウム230記録に見られる予想外の極小値を説明するものである。今回の同位体比の解釈を説明するには、約900万km3の淡水が必要であり、この計算は水文フラックスと境界条件の変化の見積もりによって裏付けられる。これだけの量の淡水が陸地ではなく海洋に蓄積されていたことは、淡水に敏感な安定酸素同位体に基づく海水準の再構築の見直しが必要である可能性があること、そして、大量の淡水が非常に短い時間スケールで北大西洋に運ばれた可能性があることを示唆している。

