集団遺伝学:ヨーロッパ人到来以前のカリブ海地域の遺伝史
Nature 590, 7844 doi: 10.1038/s41586-020-03053-2
カリブ海地域では約6000年前に人類が定着し、約2500年前に土器の使用と農業の集約化によって古期から土器時代への移行がもたらされた。今回我々は、バハマ、ハイチおよびドミニカ共和国(イスパニョーラ島)、プエルトリコ、キュラソー、ベネズエラの遺跡から出土した計174体の人骨に由来するゲノム規模のデータを提示するとともに、既報の89人分のゲノムデータと合わせて解析を行った結果について報告する。古期に最初にカリブ海地域に到達した石器を使用する人々は、中米や南米北部の人々に最も近縁で分岐年代の古い集団に由来しており、過去の研究結果とは対照的に、北米の人々に由来する集団のこの地域の祖先への寄与に関しては裏付けが得られなかった。古期の人々に由来する系統はその後、98%以上が、南米北東部のアラワク語族の言語話者に由来する遺伝的に均一な土器使用集団によって取って代わられたことが分かった。この集団は、遅くとも1700年前までには小アンティル諸島を経て大アンティル諸島へと移動し、その結果もたらされた系統は現在も一帯に存在している。また、これらの時代のカリブ海地域の人々は、有効集団サイズの小ささを反映して配偶者プールが限定されていたにもかかわらず、近縁者との交配を避けていたことも分かった。プエルトリコおよびイスパニョーラ島における、今回解析した人々が生きていた時代以前の数十世代の有効集団サイズは、最小で500~1500人、最大で1530~8150人と推定された。総人口が有効集団サイズの10倍を超えていたとは考えにくく、そのため、汎カリブ海地域の人口を数十万人とする過去の推定は過大である。土器時代の集団が小さく相互につながっていたことを裏付けるように、別々の島に存在する19組の親類、イスパニョーラ島内で約75 km離れて埋葬されていた近親者、そしてこれらの島々全体に見られる低い遺伝的差異が明らかになった。土器様式の変遷にわたって見られる遺伝的な連続性は、土器時代の文化的変化が、遺伝的に異なる集団の大陸からの移動によって駆動されたものではなく、相互につながるカリブ海世界の中での相互作用を反映したものであることを明らかにしている。

